寄稿記事

俺たちだって男優で検索してAVが観たい!女性向けAV研究者から一言。【服部 恵典氏】

俺たちだって男優で検索してAVが観たい!女性向けAV研究者から一言。

今記事は「アダルトビデオの研究者」として有名な「服部 恵典ハットリ ケイスケ」氏にご寄稿いただいたものです。

アダルトビデオに造詣が深い服部氏にAVの男優検索の必要性について力説していただきました。

「女優の検索機能は使うけど、男優の検索機能なんて要るかなぁ?」
と思っているそこのあなたは、ぜひ最後までお読みください。

確かに男優の検索機能は必要だ…というかあるべきだ。むしろ、どうして今までなかったんだ?!」となること、間違いなしですよ。

【寄稿者プロフィール】

今回VOLSTANISHにコラム記事を寄稿してくださったのは、AVに造詣の深い服部恵典氏。

普段は東京大学で女性向けアダルトビデオについて研究しており、数々の論文やエッセイを手掛けています。

今回はそんな服部氏に「AVの男優検索の必要性」について執筆していただきました。

■note:【プロフィール】服部恵典の論文、記事、作品一覧
■TwitterID:@HAT0406

※以下からが、服部氏に寄稿していただいたコラムです。


私、服部恵典は、東京大学で女性向けアダルトビデオの研究をしている博士課程の大学院生である。

だから女性向けAVについて解説しようと思っていたのだが、東風克智氏がすでに「AVマイスターが紐解く女性向けAVの違いとは?」という記事を寄稿していた。

読むと、「限りなく男性向けに近い女性向けAV」と「限りなく女性向けに近い男性向けAV」の存在を指摘するバランスの取り方や、解説している「一般的な男性向けAVと一般的な女性向けAVの違い」については、流石の感覚である。わざわざ私が重ねて書く必要もあるまい。

そこで私は、東風氏があえて詳しく触れなかった「限りなく男性向けに近い女性向けAV」や「限りなく女性向けに近い男性向けAV」のほうへと接近することで、差異を出したいと思う。

したがって、「女性の性の専門家から、女性が内に秘めている性的欲望の秘密を覗き見よう」と思ってこの記事を開いた方々には申し訳ないが、そんなテーマで書くつもりはない。

女性向けAVの登場は、女性の得になるのならいいが、男性の方が「エッチな女の子が増えて嬉しいねえゲヘヘ」だなんて得する構造を温存してしまうようでは間違っていると思うのである。

女性の性は、わかろうと思えば思うほどに理解から逃げていくものだ。
「『女』とは、男には絶対にわからない別の生き物だ」と開き直るのは倫理的に大問題だが、「簡単にわかる」と甘く見るのも大問題なのである。

女性のことがわからなくなっていくだけならまだいい。
同時に男性の性も理解から逃げていくのが、この研究の難しさであり、面白さだ。

男性の性をもわからなくさせていくのは、さらに言えば、この研究の目標であり、思い切って言えば、この研究に求められる倫理ですらあるかもしれない、と思っている。

ただしもっと踏み込むなら、「マイノリティ(女性)はマジョリティ(男性)がハッと目覚めるための道具ではない」というさらに繊細な倫理が要求されるが……難しい話はこのぐらいにして、もう少し具体的な話をしよう。

「セックスまでの過程が大事」は本当に女性向けAVだけなのか?

女性向けAVを観ていて、特徴らしきものを発見したとする。

「なぜ女性向けAVにはこの特徴があるのだろう」という問いが基本だが、忘れがちなのは「なぜ男性向けAVにはないのだろう」という問いだ。

そして重要なのは、「なぜないのだろう」と問うて初めて、すでにそこにあって混乱するという経験である。

たとえば、「女性向けAVはドラマが長い」という特徴がよく言われる。
セックスに至るまでのストーリー、セックス後のピロートークが、男性向けAVに比べてたっぷりと描かれているのだ。

それを知った男性は、「女性の性欲ってのは変わってるね。俺はそんなんじゃ抜けないよ」なんてニヤついたりする。
(逆に、「私は女性向けAVじゃ興奮しないんだよね」という女性の意見もまた、とてもよく耳にする。それはある意味当然で、女性がみな女性向けAVのほうが好きなのだとすれば、こんなにニッチな市場規模で落ち着いているはずがない。が、今日はその話は置いておこう。)

しかし、男性だって物語重視のエロコンテンツは消費してきているはずである。
たとえばエロゲ(アダルトゲーム)は、「抜きゲー」と呼ばれるただただ効率的にオナニーを促進させるゲームももちろんあるけれども、「泣きゲー」「鬱ゲー」と呼ばれる、性行為がおまけみたいなシナリオ重視のゲームだって多く存在する。

AVだって実はそうだ。ある種の作品が、優れたドキュメンタリーやエロ・グロ・ナンセンスなサブカルチャーとしても消費されてきたのは言うまでもない。

そうした消費は過去のものになったわけではなく、2020年2月現在FANZAでお気に入り数3位の『彼女が3日間家族旅行で家を空けるというので、彼女の友達と3日間ハメまくった記録(仮) 麻里梨夏 富田優衣』および同シリーズは、映画・ドラマのごとき演出が好評を博している。

つまり、「女性はセックスまでの過程が好き、なのか? なぜ?」と問うていくうちに、「俺たちもセックスまでの過程が好き、なのか?」と足元が不安定になっていくのだ。

女性向けサイトには男優絞り込み機能がある。

そして、ここから本題として取り上げたいのが、AV男優検索である。

女性向けAVの特徴はいくつかあるが、そのうちの1つが画面、視線の構成だ。

一方の男性向けAVは、男優―カメラ―視聴者の目の位置を近づけることで、視聴者があたかも女優とセックスしているかのような視界を楽しむ、という画面の構成が多い。
男優と視界を共有する以上、視聴者に男優の身体はあまり見えなくなり、逆に画面の中心は女優が占める。

他方で女性向けAVは、私の見たところ、その視線を180度回転させたもの、ではない。
あえていえば、視線を90度回転させたものであると言ったほうが正しい。

つまり、男優も女優も同時に画面に映っている
視聴者は、男優と見つめ合うというよりは、女優と男優が見つめ合うのを第三者的な立ち位置から見つめることになるシーンが多い。

とはいえもちろん、男性が観るAVよりも男優が間違いなく多く映っているといえるだろう。
ゆえに、映っている男優を目的に視聴できるように、AV男優で絞り込み検索できる仕組みを持っている動画サイトが多い。

たとえば、ソフト・オン・デマンド・グループに属する女性向けアダルト動画サイト「GIRL’S CH」を開いてみよう。
ここの「総合動画検索」欄には、「男性出演者で絞り込む」という項目がある。

見ると、一徹、北野翔といった女性向けAVに多く出演する男優の名も並んでいるが、森林原人やしみけんといった男性にも馴染み深い有名男優のほか、元祖キモメン男優として知られる吉村卓の名もある。

約90名、非常に充実したラインナップだ。
AVの仕事だけで食えている男優はベンガルトラより少ないというしみけんの言葉があるが、ジャワサイ(約60頭)よりは多い。

GIRL’S CHに限らず、男優で動画を絞り込む機能を持つ女性向け動画サイトは多い。

このAV男優検索、便利だと思わないだろうか。
私はぜひ、FANZAのような大手アダルト動画販売サイトでも導入してほしいと思うのだ。

現在のAVでは、男優の名はクレジットされないことが非常に多い。だから、男優を目的に動画を探すのはかなり困難だ。

もちろん、超有名男優の名前で検索すれば数十本ぐらい見つかるが、これは出演数に比してあまりに少ない。

「俺たちだって『AV女優検索』ができるじゃないか」という反論はあまりに浅はかだ。
私が言いたいのは、そういうジェンダー対称的なしくみのことではなく、「俺たちだって男優でAVを選びたい日があるじゃないか、ないとは言わせないぞ」という提言である。

俺たちだって男優検索がしたい。

なぜ、AVに出演男優の名前を積極的に記載し、検索できるようにしてほしいのか。

まず、小さな理由を2つ挙げておこう。

第一に、研究者である私の個人的な理由として、女性向けAVと男性向けAVの両方に出演している男優たちのパフォーマンスが、それぞれどう異なっているのか分析したいときに便利だ。

だが、やはりこれは個人的な理由であって、この意見にうなずいてくれる人は、日本全国1億人探しても片手に収まるだろう。

第二に、AVも映画と同じように、最後に流れるスタッフロールをしみじみと眺めながら「ああ……これだけ多くの人々に支えられてこの珠玉の映像が生まれたのか……」とじーんとしたいときがある。

つまり、監督と女優だけでなく、男優、そしてカメラ、照明、メイク……も明らかにしたっていいじゃないかという気分である。

だが、やはりこれは相当レアなことだ。
そもそも、AVとは「最後まで観なくていい」どころか「最後まで観ることが稀」という、他に類を見ない特徴を持つメディアである。

私も、AVにスタッフロールがつこうが、気付かないことのほうが断然多いに違いない。

AV男優を記載し、男優名で検索できるようにしてほしい主たる理由としてはやはり、異性愛者の男性であろうが男優に惚れ込んでしまうことがあるから、結局これに尽きるだろう。

AV専業の男優は、コガシラネズミイルカよりちょっと多いぐらいしかいない。
それほどまでに、AV撮影に必要なスキルを持つ男優は貴重なのだ。

AVは、女優のパフォーマンスだけでなく、男優によるパフォーマンスがあって初めて成り立つ。

ならば、何本か観ていれば「このAV女優は男優の技術によって輝いている!」と気づく瞬間があるに違いない。

このAV男優が(輝かせる女優を)もっと観たい!」のカッコは、ちらちらと消えては現れる。
これまで一度もそう思ったことがないのならば、頭が空っぽになるほどAVを楽しんでいるか、レズビアンAVばかり観ているか、どちらかだろう。

たとえば、私は最近、あるAVを観ながら、「なんって気持ちよさそうな胸の触り方をする男優なんだ……」と感激してしまった。なんというか、見せるための責め方ではないのだ。

私個人の意見にすぎないが、「ほ~ら、こんなにゆっさゆっさでぶるんぶるんですよ~」みたいな、揺らして潰して迫力だけ伝える触り方には冷めてしまう。

あとアクリル板に押しつけるやつ。だからどうしたという気分になる。

もっとフェティッシュな巨乳作品になると、金属の細い棒で胸を挟んだりするのが稀にあるけど、何なんだ? あれ好きな人いるのか? あの棒はどこで買うんだ? なんて検索窓に打ち込んで注文してるんだ? やっぱり「本品はジョークグッズですので、その他の目的でご使用された場合の責任は一切負いません」って書いてあるのか?

その男優の前戯は、視覚に訴えかけるだけの触り方ではなく、「愛撫」という感じのする手つきだった。
というよりむしろ、「見せる」ための触り方ではないからこそ、女優の「本物」――のように「見える」――快感を「見せる」ことができる、という逆説がここに表れていると思った。

かつ、見苦しくなく清潔感のある容貌。かといって嫉妬するほどのイケメンではなく、黒子としてのAV男優の役割をきちんと果たしていて、良い意味で存在感が薄い。
しかしだからこそ、「彼の作品がもっと観たい!」と思ってもなかなか探し出せないのだ。

おっぱい愛撫マスターはただの一例にすぎない。

「この男優は言葉責めのボキャブラリーが豊富だ」
「喘ぎ声が過小でも過剰でもない」
「乳首に毛もぶつぶつもなく責められるのを見ていて不快じゃない」
「是枝裕和が演技指導したのかと思うほど自然なショタだ」

など、私にとって男優を褒めたくなる観点は無数にある。

あなたにもないとは言わせない。万が一、アクリル板さばきが巧みな男優をあなたが探しているのなら、おそらく私よりも男優絞り込み検索を熱望するはずなのだ。

男優名も、ときどきクレジットしてほしい。

もちろん、男優の存在感がありすぎると没入できない、という意見はよくわかる。
私も、見知った男優が出ていると、お前は「俺」じゃないだろ!! と至極当たり前のことに逆ギレしてしまう。

要するに、AVに映る男優は、己を投影するための「ただの男」であってほしいことも多い。

しかし、AV女優にだって素人モノがあるわけだ。
われわれが抱える「AVに映る女優は『ただの女』であってほしい」という身勝手な欲望のために、単体作のある女優といえど、Fカップ素人の〇〇ちゃんとして、名前がクレジットされずに出演することはある。

性的欲望を喚起させるAVのその独特のしくみはあったままでいい。ただ単に、男優名もときどきクレジットしてほしいし、ときどきクレジットしないでほしいというだけだ。

そうすれば、私はおっぱい愛撫師を思う存分観られるし、気が散る有名男優を適度に避けることができる。

そう、異性愛者の男性にも、AV男優検索は必要だ。
我々にも、男優のためにAVを観るという経験や欲望は、つねにあるとは言わないにせよ、当たり前にあることだ。

女性向けAVを研究し、「男優で絞り込めるのが特徴だ」と素朴に書こうとした瞬間に、「いや待てよ、俺たちだって男優で絞り込みたいはずじゃないのか?」と反省的に性的欲望が揺さぶられる。わからなくなる。

このわからなさを、「エロとは謎に包まれているからこそ素晴らしい」と神秘化させずに、分析可能な対象として慎重に、自分のこととして我々は受け止めなければならない。

AVは、観るだけでも楽しいが、考えるともっと楽しいはずなのだ。

※ここまでが、服部氏に寄稿していただいたコラムです。

【編集後記】大好きな女優を輝かせた、あの男優の名前が知りたいと切に思った。

今回はアダルトビデオを研究している服部氏に「男優検索の重要性」について力説していただきました。

服部氏の記事を読んでいる最中、私の頭の隅には「あるAV男優」のことがチラついていました。

皆さんもそうでしょうが、ご多分に漏れず、私にも好きなAV女優がいます。
顔だけでなくスタイルも抜群で、声もドストレートに好み…ただ1点「演技が嘘っぽい」のだけが気がかりでした。

「大げさに喘ぐのも結構だけど、もう少し自然な演技にならんもんかねぇ…」
なんて文句を言いながら彼女の出演作品を見ていた時に、事件は起こります。

ある作品で、彼女の演技がとてつもなく自然だったのです。
ワザとらしく喘ぐのではなく、静かに吐息を漏らしながら、かすかに身体を震わせている…「これは本当に感じているのでは?」と思ってしまう程でした。

その作品に出演していた男優の前戯のテクニックは、今思い出しても凄まじいです。
女体のすべてを知りつくしているんじゃないか、と思えるほど正確で、静かで、堂々とした手技でした。

画面の向こう側で思わず「これは凄い…」と感嘆した程。
今思えば、彼のテクニックが、私の好きな女優の「本当に感じている姿」を暴いてみせたのです。

当時は「この男優さん上手いなぁ~」と思うだけでしたが、服部氏が言うように「男優の検索機能」があれば…きっと、彼が出演している作品を貪るように見ていたことでしょう。
なにせ彼なら「女優の演技でない姿を暴いてくれる」のだから。

もしこの声が届くのであれば、今後「男優の検索機能」が発達することを、切に願うばかりです。

服部氏の記事の熱意に感化されて編集後記が長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

 

 

ABOUT ME
千葉 和孝
千葉 和孝
1989年岐阜生まれ。男性向け雑誌のライターを経験した後に、編集長に誘われてVOLSTANISH編集部に移籍する。 マッチングアプリで偶然見つけた元カノに「いいね」を送るも、次の日にプロフィールを確認したら「退会済み」になっていた苦い思い出を持つ。